がんばれないタイプの嵩
朗読で際立つ声の良さ

 さて。小倉連隊に入隊して3カ月。「軍隊はがんばらんやつには死ぬよりつらかよ。がんばればそれなりによかとこばい」と健太郎に言われたものの、嵩はがんばれないタイプ。与えられた仕事をうまくこなせない。班長の当番に選ばれたが、洗濯物をきれいにたたむこともできない。そういえば第51回でも朝、自分の布団をうまくたためていなかった。

 そんなある日、中隊長・島(横田栄司)が顔を出した。「軍人勅諭」の五箇条を言ってみろ、と島が振ると、古参兵・馬場力(板橋駿谷)はしどろもどろ。次に嵩のお鉢が回ってきた。

 あらかじめ八木に暗記するように言われていたため、すらすら暗唱できて、島は「おれよりうまいじゃないか」とごきげん。

 島はがたいは大きく迫力あるが、物腰やわらかく、いい人に見える。馬場とか神野(奥野瑛太)のような中途半端な人物が陰湿な暴力に訴えかけてくるだけなのかもしれない。だからこそこんな人前で恥をかかせたらまた陰で意地悪されそうで心配になるが……。

 島の「おれよりうまい」は朗唱がうまいってことだろうか。島を演じている横田栄司は声がよく明晰にセリフを語れる名優である。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の気の良い大男・和田義盛で人気を博した。しばらく体調をくずしてお休みされていたが徐々に復帰していて喜ばしい。

 そんな島に「うまい」と褒められた嵩。北村匠海はミュージシャンでもあるので声がいい。そしてよく通る。この手の軍隊ものでは大声でがなる場面が多く、きんきんうるさく感じるものだ。北村匠海はきれいにはっきりした声を出せるので、その点、不快感が軽減されている。声のいい島にもホッとした。

『軍人勅諭』で救われたと思った嵩は八木に感謝を伝える。班長の当番に推薦してくれたのも八木ではないかと問いかけてみたが、無視。

 その後、中隊長から幹部候補生の試験を受けるように格別の使命があり、試験までほかの当番や使役が免除になった。

 体力がなく不器用な嵩。彼がこの体育会系の極北のような場で絶望しないで生き抜くためには、幹部になるしかないのだろう。どんな場所でも生き抜く方法というものがあるものなのだ。

 でも八木が幹部候補生にならないのはなぜだろう。ますます八木の存在が気になる。妻夫木聡がミステリアスな雰囲気を漂わせている。

叫ばず、殴らず、ただ「いい声」で勝つ男――「がんばれない嵩」の静かすぎる逆転劇【あんぱん第52回レビュー】